「…それからこういうのもあるわ。/『皆から見捨てられた神を、私はお待ちする』/というのもね。これを見るとマダガスカル人というのは強くてすがすがしい人たちね」(曾野綾子『時の止まった赤ん坊』)

 碁が宇宙そのものを表しているという考えにちょっとふれたが、これはゲームの起源にも関係がある。もともと宗教的なことがら、あるいは占いや予言を目的としてゲームは創られ、その後時代が下がるにつれて世俗化し、もっぱら遊戯や賭けの対象となったのだという説は、しばしば目にする。ゲームが宇宙もしくは神意を具現しているならば、その進行によって今後の世界のなりゆきを占うことができると信じる気持ちはわからないでもない。しかし、そもそもそのためにゲームが創られたというのはどうだろうか。
 この手の起源説が長い間信じられていた典型例はタロットだろうが、論理-言語哲学者のマイクル・ダメットはそれをひっくり返して見せた。タロットは本来遊びに使われていたのである。
 文献を追うことのできないくらい古代から遊ばれてきたゲームについて起源をはっきりさせるのは、ちょっと考えただけでも容易でない話だ。初めは遊ばれていたものが後に宗教上の目的や占いなどに転用されたと考えても、それだけでは矛盾は生じない。だから私などはついつい、最初はただ遊びに使ったんじゃないのと思ってしまうが、もちろんこれが正しいという確証もない。このことは大げさにいえば、当時の人々の世界観によるだろうし、それはまた宗教ともかかわるだろうから、現在の私にはなんともいえない。
 それにしても本当にゲームによって宇宙や自分の未来を知ろうとすることがあるのだろうか。サイコロで運試しくらいのことは考えられるが、どちらかというと決断力の無さをサイコロで補うという発想で、それが正しい未来を示しているとは現在では思わないだろう。昔の人だってそうだったんじゃないだろうかと決め込むのは現在の発想だからなのか。難しい。

 ところが、思いの外最近(といっても百年以上も前)、存亡をかけた戦いをゲームの結果で占った国があるらしい。
 「ファノロナ(Fanorona)」というゲームをご存知の方は多いだろう。マダガスカルのゲームで独特のルールをもつアブストラクト・ゲームである。勝利条件は敵のコマすべての捕獲で、この点でとりわけかわったこともないが、捕獲の仕方が独創的だからトラディショナルなゲームといっても今なお興味深い。私はこのゲームが好きなので、紙と碁石のようなコマがあれば簡単に遊べることもあり、「孤独の部屋」で紹介するつもりでいた。
とりもなおさず、ご存知ない方のためにまずルールを紹介する。

 ゲームボードとして図1のような直線でできたものを用意し、白黒(あるいは二色のコマ)を各22個ずつ直線の交点に配置する。図1が初期配置である。本当はもっと豪華なボードで紹介したいが残念ながら商品版はもっていない。しかし、いたって単純だから画用紙にでもすぐに描ける。それでだって、ゲームの面白さは変わらない。
 白から始める。手番プレーヤーはコマを移動させ、場合によっては相手のコマを捕獲する。以下、細かいルールを箇条書きにしてみる。

  • 移動…自分のコマを1つ、ボードの直線に沿って隣の空いている交点に動かす。
  • 捕獲…移動の結果により、相手のコマを1つ以上捕獲できるが、そのやり方に2種類ある。
    • (1)接近:移動方向と同一直線上に敵コマがあり、そのコマに隣接する交点へ接近移動した場合、そのコマは捕獲される。もしそのコマの後ろにも連続して敵のコマが直線上に並んでいたならば、連続している限りすべて捕獲される。
    • (2)後退:敵コマの隣にあった自分のコマを、その敵のコマから離れるように移動した場合、その敵コマは捕獲される。このとき、もし移動方向と同一直線上に敵のコマが連続して並んでいたらそれらすべての敵コマは捕獲される。
  • 接近・後退いずれのやり方でも捕獲できる場合は、手番プレーヤーがどちらを捕獲するか決める。
  • 両プレーヤーとも最初の手番では1回の移動と捕獲しかできない。しかし、2回目以降は同じ直線上を移動せずに捕獲できる限り、移動・捕獲を好きなだけしてよい。

 ここはわかりにくいと思うので、例で説明する。

 図2で白の手番だとする。g2からg3へ白コマが移動すると、g4の黒コマに接近することになり、またその直線上にはg4とg5が連続しているのでこの2つの黒コマは捕獲される。白はさらに移動する直線を変えg3からh4に移動し、i5を捕獲できる。さらに移動する直線を変えh4からg4に移ると後退によってi4を捕獲できる。ここで手番は終わりである。
 すべての敵のコマを捕獲したら勝ちとなる。
 さて、続けて勝負する場合はvelaといって特別なルールが採用される。負けたプレーヤーから始める。前回勝ったプレーヤーは17個のコマが捕獲されるまで移動しかできない。ただし、前回負けたプレーヤーはその間1手番で1個の捕獲しかできない。
 捕獲のルールが他にない変わったものなので少し面食らうかもしれないが、実際にやってみるとルール自体は難しくない。しかし、いままでやったことのない捕獲なので、特に連続捕獲がからむと頭をどう働かせればいいのかとまどう。その分、たいへん面白く、ダイナミックな変化に感動すら覚える。準備は簡単なので興味のある方は是非試していただきたい。 (続)

美化委員

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